堀越千秋さんへ

先日、私の大好きな大好きな方が遠いところへ旅立たれました。

 

堀越さんには大変お世話になり、寂しいこと、悲しいことこの上ありません。

 

私が現在主宰しているお芝居、「大変な心配シリーズ」も、堀越さんに大変気に入って頂いていたようで、毎度足を運んで頂き、「埼玉で上演しよう!」と仰ってくださったり、とにかく応援してくださいました。

 

堀越さんとのエピソードは尽きませんが、ひとつ。

 

昔、たまたま新聞で見かけたこの笑顔。「なんだか面白そうな人だな」と思い、何の記事かと読んでみたら、堀越千秋という画家さんが書いたドン・キホーテの絵本の朗読コンテストがあるとのこと。この面白そうなおじさんに会いたい一心で必死に稽古し、なんとなんと運よく優勝でき、本当に「知り合い」になれました。

会ってみると、予想通りの面白さ、自由さ。

名刺を渡しながら、「一年の半分はマドリードやけど、もう半分は埼玉の山奥で暮らしてるから今度おいで」と、中途半端な関西弁で言われました。ますます面白い!

それからは年に一、二度会いに行くようになりました。

ある時は「酒飲ませるから大道具作るのを手伝え!」なんて言われ、酒につられてほいほい山まで行きました。舞台の大道具になる巨大なオブジェを作るとのこと。

「これが設計図や!」と見せられた図には一本線が引いてあって、その上にぐじゃぐじゃと雲のようなものが書いてある。どうやらその線がダンサーで、ぐじゃぐじゃ雲がこれから作るオブジェとのこと。これ、設計図いる?

山でとってきた木やら、石やらを縛った木にくっつけてそこに絵の具をバケツでぶちまける。「思いっきりやれ!」と言われたので、本当に思いっきりぶちまけて、さすがにこれはやり過ぎかな…、と思ってたら、ニコニコしながら「そうそう」と笑っている。このオッサンむちゃくちゃやな、と思いながら、ともかくも酒のために頑張る。もう日が暮れて、この大きなオブジェをどこで乾かすのかと思ったら、そのまま山に放置するとのこと。「そんなことしたら霜が降りて色が変わったり、鳥の糞がついたり、虫が住みついたりしますよ!」と言ったら。「それでええねん」とまた中途半端な関西弁。あ、この人、本当の関西人かも…、と思いました。

温泉入って、うまいもん食って酒くらって、次の日。

その天然の「アトリエ」に行ってみてビックリ。たしかにいろんな「汚れ」がついてはいるものの、なんとも言えない深みが出ている。「あ、これアリかも」

乾いたオブジェを車に積み、解散し下山。この山から下りるとまた現世に戻らなければいけない。堀越さんとの別れはいつも夢から醒める寂しさがあります。

後日、銀座の劇場に集合し、オブジェを舞台に設置。設置した途端にオブジェから山の虫やら、土やら、木くずが舞台にボロボロ落ちて来て、舞台監督が大騒ぎ!!「はたけはたけ!!」と言ってオブジェを箒でぶっ叩いていました。堀越さんは怒りもせず、ニコニコ。おそらく、舞台監督が叩くところまで美術プランに入っていたのでは?

紆余曲折あり、舞台稽古が始まり、照明があたる。

 

息を飲みました。

 

堀越マジックというべきか…、あんなにむちゃくちゃ(?)に作ったのにたしかに最初に見た設計図通りの雰囲気を持っていて、しかも照明が当たった時の存在感たるや見事の一言!!「美」を超えた「凄絶な何か」がそこにありました。人間だけで作っていたらあんな雰囲気は出ない。大きな大きな視点で山の力を借りて出来た産物特有のオーラでした。これを実現できた堀越さん、やはりすごい!と思いました。

この舞台、後から知ったのですが、小島章司さんという素晴らしい世界的な踊り手さんの舞台で、なんと天皇皇后両陛下が見にこられました!堀越さん、のちに「『美智子さんにあのオブジェは何ですか?』と聞かれた。つまらんことを聞く。」と大笑いされていました。

 

堀越さん、心からご冥福をお祈りいたします。

 

追伸

映画の脚本、間に合わず、すいませんでした…。